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料理をめぐる妄想日記やエッセイ、絵本のようなフィクションまで、
現実と空想の間をふわりと行き来する”おいしい読み物”をお届けしています。
誰かの一皿に、そっと寄り添うような物語を。
妄想と空腹の世界に、いらっしゃいませ。
最近よく聞く”推し活”。
すごく便利で親しみやすい言葉だ。
昔は「好きな人がいる」「〇〇の大ファンだ」とかちょっと恥ずかしくなりながら言ってた気がする。もしくは「○○を応援してる」とか?でもそれだと自分の愛を十分に表しきれていない。
それが今は「推してます」で全部済む。あたたかくてすごく熱量を感じるのに、ポップで重さを感じさせない。
ファンの熱量が高すぎると「ヲタク」と揶揄されていた時代は終わりを遂げ、「推し活」という誰しもが当たり前に公言できるポップカルチャーに昇華した。
かくいう私も”推し”がいる。
学生の頃、推しが出ているテレビやドラマはくまなく録画して、雑誌も切り抜きしてスクラップ帳を作っていた。寝る時にCDを流しながら寝るのが日課で、歌声に包まれている時間が幸せだった。
そんな推しが、今でも画面の向こうで活躍していて、YouTubeもやってくれて、サブスクまで解禁してくれるなんて、なんというか、すごすぎて嬉しすぎて拝みたくなる。
そんなことを考えながら、ニヤニヤとMVを見ているといつの間にか思考がどこかに旅立っていく。

フィクション食堂:出会いは、突然に
夕飯の買い物帰り。
重たい買い物袋をぶら下げて歩いていると、ぽつぽつと雨が降ってきた。次第に雨足は強くなり、1分も経たないうちに、傘を持たない私はずぶ濡れになった。
ここまで来ると、もうどうにでもなれだ。びしょびしょに濡れながら先ほどと変わらぬ速度で歩いていた。
私が歩く歩道の横を真っ赤な車が通りすぎた。と同時に、私の背丈以上にあがった水しぶきがバシャーっと見事に私めがけて降ってきた。
笑うしかない。今日はずぶ濡れになる運命だったんだ。と少し笑いながら歩みを進めようとしたとき、先ほどの赤い車が止まっているのに気づいた。
中から一人の男性が傘を差して小走りで降りてきた。
彼「すみません!!大丈夫ですか!?」
車は派手だけど、わざわざ降りてきて律儀な人だな。
私「全然大丈夫ですよ。もうすでにびしょぬれだったんで。気にしないでください」
と笑顔で答えた。男性は黒いマスクとキャップをかぶっていてあまり顔が見えないが、目がやけに整っている。
ん・・・?ふと、心がざわついた。
彼「すみません、大きな水たまりがあるのに気がつかなくて。このままだと風邪引きますよ。」
私「は・・・!!!!」
・・・え?いやいや、そんなはず。
いや、でもこの目、輪郭、声、、、、あの人過ぎない!?
そう確信した瞬間、私は心臓が速くなり、手が震え、声が上ずっていた。
彼「震えてる・・やっぱり寒いですよね?車乗って下さい。お詫びといってはなんですが、ご自宅までお送りしますから。」
私「え!!!いやいやいや・・・け、結構です・・!恐れ多い・・!」
彼「遠慮しないで。このままでは僕の気が済みませんから。僕のためと思ってぜひ」
ちらっと見た彼の目が優しく笑っていた。何万回も雑誌やテレビで見た、あのきらめくような笑顔が目の前にあった。私は何が起きているか分からないまま彼の車の助手席に座っていた。
彼「それ、何買ったんですか?」
私「えっ、あ、はい!ウインナーとにんにくと、パスタを…。スープパスタにしようかなと思って…。」
答えながら、もっと手の込んだ料理の材料を買っていれば良かった、などとどうでもいいことが頭に浮かんだ。
彼「めっちゃいいじゃん!僕にんにく、大好きなんです」
夢だ。絶対夢。夢にしても贅沢すぎる。目の前の推しが私とパスタの話なんて・・!
たどたどしく会話しながらも、目の前の状況があまりにも信じられないせいか、私の頭の中では、学生の頃から見続けていたテレビの中の彼の姿を思い返していた。
私の推しはかっこいいだけではなく、努力家でとても優しく謙虚なのだ。
彼はあらゆるインタビューや雑誌の取材、ライブのMCなどで必ず「自分たちがいるのは〇〇のおかげだ」「スタッフさんのおかげでLIVEができている」「ファンのおかげでここまで来れました」と謙虚な姿勢で誰かに感謝を伝える。
その自然に発せられる言葉がこれほどまでに彼を大人気スターへ押し上げた理由でもあるし、私が彼を推し続ける理由でもあるのだ。
待てよ、そうか夢か。うんそうだ。夢なら・・・よし・・!
私「じゃあ・・・私、作りましょう・・か?パスタ・・」
言ったー!!!夢ならどうなったっていいもんねー!断られても夢だもん、夢!
頭の中で虚勢を張りながらまだ手は震えている。
彼「え!いいの!めっちゃお腹すいてたから嬉しい!」
無邪気に笑う彼を見ながら、夢よ、このまま一生醒めないでくれと願った。
フィクション食堂:にんにくの香りと近づく距離
家に着いてからのことはあまり覚えていない。
雨は少し収まっていた。5分だけ車で待っていてもらって、超特急で部屋を片付けた。全部押し入れに詰め込み、貰い物の良い香りの芳香剤を初めて開封して置いた。
部屋にあがってもらい、適当にソファーでテレビを見てもらっている間に、
『にんにくとウインナーのスープパスタ』を作った。
どんな風に作ったか、調理中何か会話したかは緊張しすぎてもう覚えていない。
彼「ありがとう!いただきます。・・・ん!これ、にんにくが効いててめっちゃうまい!!」
私「ありがとうございます・・!でも、そんな、適当なズボラ料理ですよ。」
彼「その適当が一番難しいんですよ。僕、料理ほんと苦手で」
私「前テレビでも言ってましたね」
彼「そうそう、食べるの専門!」
そういって無邪気に笑いながら、フォークにこれでもかと巻きつけたパスタを大きな一口で食べる。
ウインナーの旨味と、にんにくの香りが溶け込んだスープ。そのスープを存分に吸ったパスタ。
赤唐辛子のピリ辛感がアクセントになり、パセリの爽やかな香りが鼻に抜ける。
私と彼が同じ味を食べている。
それだけで、信じられないくらい、幸福感に包まれた。
フィクション食堂:別れと現実
彼「じゃあ、美味しいごはんをありがとう。風邪ひかないようにね」
玄関で靴を履いている彼に向かって、勇気を振り絞って声をかける。
私「あの、実は私、昔からずっとあなたのファンで、あの、これからも応援してます!」
彼が優しく笑って、小さく手まねきをする。恐る恐る、彼の目の前に立つと、すっと彼の右手が私の頭に触れた。
彼「ありがとう。美味しいパスタのおかげでまた僕も頑張れるよ。じゃあまた、どこかでね」
その優しい声とともに、彼の姿は目の前からいなくなった。
玄関を開けて周りを見渡しても彼の姿はもうどこにも無かった。外はもう暗くなっていた。ふと見上げるとすっかり雨は上がり、目の前にはきらめく星が光っていた。
美味しいパスタのおかげで・・・
これが夢でも夢じゃなくても、一生彼を推し続けようと改めて心に誓った。
******************
「ただいまー」という夫の声に、現実が戻ってきた。
私の妄想劇場は、ここで一旦、幕を閉じるらしい。
今日の晩ごはんはもう決まっていた。ウインナーのぺペロンスープパスタ。
夫が「うまっ!今日のこれ、また作って!」と言ってくれた。
私の推しは今日もテレビの中で歌っているし、私は今日もキッチンで推しの歌を口ずさみながらご飯を作っている。
これが私の推し活。
誰にも見せられないし、キッチンはニンニクの臭いでいっぱいだけど、
ーまぁ、悪くない。
推しに捧げるウインナーのぺペロンスープパスタ(2人分)

<材料>
- ウインナー 4本
- ニンニク 1片
- 鷹の爪 適量
- オリーブオイル 大さじ2
- パスタ 180g
- 水 300㏄
- コンソメキューブ 1個
- 塩 適量
- パセリ、ブラックペッパー 少々(お好み)
1.ニンニクは半分に切って芯(芽)を取り、薄くスライスする。ウインナーはお好みのサイズに細かく切る。
2.大きめの鍋に湯を沸かし、多めに塩を入れ、パスタを茹で始める。規定時間より1分短くする。
※パスタを茹でる時の塩加減はお湯の量に対して1%と言われていますが、家庭で作る際はそこまで気にしなくて大丈夫です。ソースと合わせる際に塩加減を調整しましょう!
3.フライパンにオリーブオイルを入れ、にんにく、ウインナー、鷹の爪を入れて、香りが立つまで弱火でフツフツさせる。
※火が強いとにんにくや鷹の爪が焦げて苦みが出るので注意。
4.水とコンソメキューブを入れ沸かす。茹で上がったパスタを合わせ1分ほどコトコトしながらパスタにスープを吸わせる。少し味見をして、塩気が足りなければここで足す。

5.お皿に盛り、パセリとブラックペッパーを振って完成。
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にんにくとウインナーの旨味を弱火でじっくりオイルに移すのがポイントです。
推しを想像しながらぜひ作ってみてくださいね。
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