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料理をめぐる妄想日記やエッセイ、絵本のようなフィクションまで、
現実と空想の間をふわりと行き来する”おいしい読み物”をお届けしています。
誰かの一皿に、そっと寄り添うような物語を。
妄想と空腹の世界に、いらっしゃいませ。
なんでもほどほどに、やってきた。
がんばりすぎると、つかれるし、
楽しみにしすぎると、なくなった時さみしい。
それなら、最初から
期待なんてしないほうが、楽だった。
そんなある日、
帰り道のすみにいるいつもの猫と目が合った。
グレーの毛に、するどい目。
近づいてもにげないし、なつきもしない。
いつも遠くを見てすわっていた。
無愛想で、気まぐれで、
ただ、じぶんの時間を過ごしているその猫は
ちょっと自分に似ている気がしていた。
あの日も、いつものようにスーパーで夜ごはんの買い物をしていた。
何もたべたいものが思いつかない。
でも近ごろはむしょうに濃い味のものを食べたかった。
ひさびさに担々麺でも食べようかな。
カップ麺に手がのびるが、さいきんは自炊をサボりすぎている。
まよったあげく、担々麺の材料を買うことにした。
豆板醤を入れて、にんにくを炒めて、
多めにラー油をかけよう。
辛さで、心のモヤモヤをかき消したかった。
その帰り道だった。
いつもの路地裏に、あの猫がいた。
でも、今日はひとりじゃなかった。
小さな子猫の前に立ち、目の前をじっとにらんでいる。
カラスがそばで羽を広げ、ひびく声で鳴いていた。
子猫はしずかにふるえている。
その猫は、大きな声も、鋭い爪も持っていなかったけど、
けんめいに毛を逆立てて、
ついにカラスを追い払った。
その瞬間、ふっと記憶の底がゆれた。
クラスの男子に泣かされていた
少し大人しいあの子をかばって、前に立った日。
すごく怖かったけど「やめてよ」って言った。
私が大きな声を出すことはめずらしかったのでみんながこっちを見た。
声はふるえ、顔はまっ赤だったけど、ちゃんと言えた。
正しいこととか、そのあとのこととか、
そんなむずかしいことは考えていなかった。
あのときのわたしは、
今のわたしより、 ― ずっと強かった。
その夜、わたしは担々麺をちょっと時間をかけて作った。
たっぷりのお湯をわかして、
ゴマをするとふわっと芳ばしい香りがした。
長ネギを細く切って、白髪ネギをたっぷりじゅんびする。
水にさらすとネギがしゃんと元気になった。
豆板醤は弱火でじっくり油に香りをうつす。
一緒に豚ひき肉を炒めてピリ辛肉みそのできあがり。
「こんなふうに、ちゃんと作るの、ひさしぶりだな」
仕上げのラー油は少なめにして、
豆乳を入れて、辛さの中にやわらかさを残した。
なぜか、そうしたくなった。
ベランダに出ると、通りにあの猫がいた。
すぐ横には小さな子猫がちょこんとすわっている。
猫は何も言わずこっちを見ていた。
「おつかれさま。キミ、なかなかやるね」
そう声をかけたけど、猫はふいっと目をそらした。
その夜食べた担々麺は、いつもよりおいしくて、
久しぶりに、誰かに食べてもらいたいと思った。

一歩踏み出す勇気をくれる「ピリ辛担々麺」(2人分)

<材料>
- 中華麺 2玉
- 長ネギ(白髪ねぎ用。細く切って水にさらしておく) 5㎝ほど
- 青ネギ お好みで(トッピング用)
(肉みそ)
- 豚ひき肉 150g
- 甜麺醤 小さじ2(なければ醤油小さじ2、砂糖小さじ2)
- 醤油 小さじ1
- 豆板醤 小さじ1
(スープ)
- 水 500cc
- 鶏ガラスープの素 小さじ2~3
- 白だし 小さじ1(なくてもOK)
- 豆乳 200cc
- 味噌 大さじ2
- 醤油 小さじ1
- 砂糖 小さじ1
- すりごま 大さじ2
- ねりごま 大さじ1.5
- ラー油 適量
1.フライパンに油をひいて、豚ひき肉を炒める。甜麺醤、醤油、豆板醤を入れてよく混ぜながら炒める。
※豆板醤は油で炒めることで香りや辛味が引き立ちます。
2.中華麺をゆでるためのお湯を沸かす
3.豆乳以外のスープの材料を小鍋に入れ、沸かす。砂糖や味噌などがしっかり溶けたら、弱火にして最後に豆乳を加えて沸騰しない程度に温める。
※豆乳を沸騰させると、タンパク質が凝固してモロモロになります。弱火で温める程度に!
4.中華麺を規定時間茹でる。茹で上がったらよく湯切りをして器に盛る。スープを注ぎ、肉みそを乗せ、お好みで、白髪ネギ、青ネギをのせたら完成!
ちなみに私は、大好きな『花椒辣醤』をかけて食べました。ホワジャオの香りとラー油の辛味で一気に本場の味になるのでお気に入りです。一度ぜひお試しください♪